イリ(伊犁)河

イリ河はアジア中部の内陸にある美しい風景に恵まれており、中国?新疆ウイグル自治区とカザフスタンの国境を跨ぐ川となっています。上流にはティキス川、クーナ川、カシュガル河の3本の支流が流れており、その中の主流となっているティキス川がカザフスタンにあるカーントゥングルメインピークの北方から流れ、東方の中国に至っています。東経82°で北に上り、カーデミン山脈を横切りクーナ川と合流します。ここからさらに北側へ進み、カシュガル川に到達した部分がイリ河と呼ばれています。そして、ここから西に150kmほど行くと最後にカザフスタンのバルハシ湖に辿りつきます。イリ河に全長は1236km、中国国内に流れる長さは442km、流域面積が5.6万?に達しており、上流では山間の深い峡谷を流れ、途中から谷が広がり小型船舶が就航しています。中流では河水が灌漑用水として利用され、河谷はかつて天山北路の一つとして重要な交通路となり、豊かな水資源に恵まれた新疆ウイグル族自治区で最も生活に利用されている河だといわれています。

イリ河流域は秦の時代にいち早く利用されていた遊牧地であり、漢の時代に西域都護府を管轄した烏孫の領地だったと伝えられています。また、中国の古代文献にもイリ河についての記述が残されており、『漢書•陳湯伝』では「伊列水」と呼ばれ、『唐書•突厥伝』では、「伊麗水」と呼ばれていました。元の時代には察合台漢の領地になり、赤河という名で記録されています。

イリ河流域の地形は西に低く広がり、南北東にはそれぞれ高い山脈が聳え、西から大西洋の湿った空気が流れてくる一方で、他方向からは乾燥した空気がめったに流れてこないことから、この地で雨が多く降る条件を整えていると言えます。そしてイリ河に合流する大小1600余りの氷河も固体ダムのように無尽蔵に水量を溜めており、雨季と氷河が水量をバランスよく調節しているので、イリ河では大氾濫に見舞われた歴史的記録もないそうです。昔からイリ河の豊かな水に育まれた周辺の畔では、スムーズに灌漑農業を展開することができ、海抜の高い傾斜地では農作を行うことができます。高山地帯では90%の森林緑化率で緑がうっそうと生い茂り、雨の少ない新疆地区の中で降水の恩恵十分に受けている土地となっています。

イリ河は水量が豊富で、落差も大きく砂の含有量も少ないことから、全てを水力発電力に開発利用すれば700万kwに達すると見込まれています。これは新疆地区の電力量の21%を占め、年間620億度の電力が得ることができるといわれています。そして、現在までに132の水力発電所が整備されており、稼働能力は延べ10万kwに達しています。また、これらの水力発電所は灌漑、洪水防止、魚の養殖などの多方面において総合的な役割を果たしています。また、水運業も発達しており、中国とカザフスタン両国の水上要衝として欠かせないものになっています。
ところが近年、経済発展と人口増加に伴う汚染問題が深刻さを増してきています。現在、汚染の防止と水質の回復が地元政府と住民にとって最優先事項となっています。